協働を目指した日本語教育の実践と支援
~モンゴルで日本人大学生とモンゴル人高校生が1か月交流する日本語夏期講習を舞台に~

  • 個人部門 塚原 彩佳
  • 言語教育研究科 日本語教育学専攻 博士前期課程2年

実施スケジュール

2019年3月上旬~10月20日
3月上旬~ 【準備】インターンシップ参加メンバー募集に関する意見交換及び打ち合わせ(メールにて)
3月28~30日 【事前学習】新モンゴル小中高一貫学校卒業生による勉強会聴講@衆議院会館他
3月末~ 【準備】新モンゴル小中高一貫学校の教員から生徒の様子をヒアリング(メールにて)
4月中旬~ 【準備】インターンシップ参加メンバー募集手伝い(SNS、メールにて)
5月4日 【事前学習】ハワリンバヤル2019参加@光が丘公園
5月25、26日 【事前学習】日本語教育学会聴講@つくば国際会議場
6月8、9日 【事前学習】異文化間教育学会聴講@明治大学中野キャンパス
6月中旬 【準備】渡航に先立ち訪問先・新モンゴル小中高一貫学校への必要書類作成、提出
7月上旬~ 【準備】新モンゴル小中高一貫学校の教員と相談の上、授業カシラバスや教案、教材の選定、作成
7月25日 モンゴルへ渡航
7月29日~8月23日 【本活動】新モンゴル小中高一貫学校第17回サマースクールにて企画実施@モンゴル
8月16~19日 観光ビザ延長手続き@中国
8月24日~27日 後片付け手伝い
8月28日 日本へ帰国
8月下旬~9月14日 新モンゴル小中高一貫学校指定様式によるサマースクール報告書作成(節単位)
9月12日 母校の教授にごあいさつ(帰国報告及び宣伝のための打ち合わせ)
9月21日 新モンゴル学園学園長・ガルバドラッハ先生による講演会出席@JICA地球ひろば
9月24~29日 朝日教育会議用PPTの作成
9月27~30日 紅陵祭で使用するワークショップ内容・映像コンテンツ、展示物のブレスト
10月1~13日 紅陵祭で使用する映像、ワークショップ資料、展示物作成

実施内容・成果

 私立新モンゴル小中高一貫学校が夏休みに実施しているサマースクールと呼ばれる夏期講習にて、社会貢献・ボランティア活動、国際交流への取り組みというテーマで貢献する取組みを実施した。
 この学校は2000年に開校し、「モンゴル国の発展に寄与する人材の育成」を教育目標に掲げている。1期生の卒業生から今まで400名以上の人が日本の大学や高等専門学校などに直接留学しており、卒業後も同窓会のネットワークが強くモンゴルの今後を真面目に話し合える仲間ができる学校である。
 全般的なモンゴルにおける日本留学の人気については、経済や技術が発展した国で学びたい人が多く、専門分野の研究レベルが高いことが動機になっている。留学者数は3,000人を超えており、モンゴルの人口1万人あたり10.15人が日本に留学している。

 
12年生2クラス合同授業

 そこで、私は社会的インパクトを与える存在になろうとする高校生が日本語を習得することは、SDGsの4.3「全ての人々が男女の区別なく、手の届く質の高い技術教育・職業教育及び大学を含む高等教育への平等なアクセスを得られるようにする」ことにつながると考えた。生徒の日本語学習モチベーションと日本語力のさらなる向上に携わりたいと思い、日本留学試験日本語科目の対策授業の実施に取り組んだ。この試験は留学生版センター試験のようなもので、私は聴読解を担当した。正答数を上げるには語彙力、読解力、メモを取る力、文字情報と音声情報の統合技術が必要である。授業実施および教材選定に先立ち、実践報告や教授法の理論の先行研究となる文献を探した。そこで読解力を高めるためには「再話」という方法があることがわかった。また、中級レベルの語彙、文法、漢字の基礎固めおよび資格情報と聴覚情報の統合に役立つ方法として「ディクトグロス」というものがあることもわかった。
これらの手法を取り入れた授業を行った結果、生徒からの最終アンケート(回答数20)では、「日本語力が伸びましたか」という問いに対し、四件法で「とてもそう思う」と答えた人が13人、「そう思う」と答えた人が7人、「授業の内容が役に立ちましたか」という問いに対し、同じく四件法で「とてもそう思う」が12人、「そう思う」が8人だった。また、ペアやグループ活動は「意見交換ができてよかった」「他の人に説明することで自分の日本語能力もわかったし、色々な言い方、言葉も学べた」と授業のねらいを掴んでくれた生徒のほか、「(学習者がモンゴル人同士の授業だけれども)日本語で話す機会になった」、「相手にわかりやすい日本語は何かわかった」、「他の人の勉強に対する姿勢に刺激を受けた」といった本授業に直接かかわること以外のプラスの要素を持つフィードバックも得られた。
 上記のほか、サマースクールの特徴は日本各地から学部生10名ほど集まり、先生になることである。1か月の滞在期間中、日本人大学生はモンゴルへのお客さんとして扱われる一方で、観光客の立場を離れ、先生としてモンゴル人高校生の中に入り込むためモンゴルの生活を体験し、異文化間理解を深めていく。そうすることで、生徒の日本語能力向上や日本への興味・関心度合が向上することと、大学生のモンゴル滞在が有意義になることは歯車のように強固な関係になっていく。
 このような立場の変化の過程は、SDGsの4.7「グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献」につながると思われる。
 私は日本人大学院生・元新モンゴル小中高一貫学校の教員として、学部生とモンゴル人教師の指導教官との間を取り持つ役割を担った。初めのうちは、初対面の大学生にどのように接するか、また私は元教員であり正式な指導教官ではないため、どこまで関わるべきか立ち位置に苦労した。しかし、モンゴル人の先生方とも小まめにやり取りを重ねることで動き方が見えてきた。結果として、モンゴル人の先生が忙しくしていても、大学生が頃合いを見計らって自ら相談しに行ってもらうのがよいと判断した。なぜなら、日本人大学生が将来的に日本語教師として海外の日本語教育に携わるのであれば非母語話者の先生とコミュニケーションを図ることは必須である。そのような体験もできる場だからである。私はあくまでも陰ながらサポートすることに留めた。具体的には、夕食の食材を買い出しや寮にいるとき、週末などを利用し、モンゴル人の先生に確認・相談したいことの洗い出しを手伝ったり、モンゴル人の先生からの指示が何を意図するのか解釈を手伝ったりすることにした。また、私が担当している聴読解の授業を見に来てもらい、気になったことの質問・感想を言ってもらう中で、大学生が自分の授業をどのように捉えているのか聞くようにした。教師として様々な立ち振る舞い方があることを確認し、選択肢を広げるように努めた。

 
町案内をしてくれた12年生と他大学のインターン生と夕食
毎年恒例の校外学習。今年はモンゴル国立大学の研究施設にて再生可能エネルギーの話を伺い、ソーラーパネルを見学した。

 大学生たちからは、「今までの自分が生徒だった時の教育経験を振り返って、当時なぜ先生があんなことをしていたのか分かった気がする」「クラスに入ると言語的にマイノリティになってしまい気後れしがちだが、先生として叱らなければならないこともあることがわかった」「もっと色々な先生の見学に行けばよかった」といった気づきや学びの声が聞かれた。生徒たちからは、日本や日本語への興味・関心が高まったというアンケート結果が得られた。また、モンゴル人の先生からも軌道に乗るまでの間、意見交換ができたことに対しお礼の言葉をいただいた。

生徒たちがグループワークに取り組んでいる様子
新モンゴル小中高一貫学校の校長・ナランバヤル先生と

活動を終えて

 本活動を終えて、私自身学んだことは大きく3つある。
 まず1つ目は、自分の過去を振り返れたことである。日本語の授業のほか、放課後には「日本人の先生と話そうシート」という宿題の手伝いを率先して行うことで、12年生の生徒全員と話した。生徒からなぜモンゴルに来たのか、モンゴルを初めて見たときどう思ったか、新モンゴル小中高一貫学校に来ようと思ったきっかけなどを質問されることで、モンゴルへの理解と日本文化・社会、自身への振り返りができた。また、私自身も生徒のひたむきな姿勢からエネルギーをもらった。生徒が頑張るのと同様に私も今そして大学院修了後も頑張っていかねばと思った。
 次に2つ目は、異文化間の媒介役になる難しさである。先述の通り、私はモンゴルで生活し、働いたことのある日本人である。どちらの文化的特徴も理解できているがゆえに互いの文化がどのように相手に映るかも知っているため、自分の立ち位置が明確化できずどのように間を取り持つべきか悩んだ。しかし、在留資格が新たに追加された今日、特に国内においては都度悩むことに多くの時間を割いていられないことに気が付いた。私は今回の経験を通して、日本語教師という仕事は、日本語を教えるだけでなく、関係が構築されていない初期の段階で外国人との接触が日常的ではない日本人と外国人との間を橋渡しする役であることがわかった。日本語教師として他の日本人にどのように関わるか考えておかなければならないと思った。
 そして3つ目は、大学院生という研究者の一歩として、研究や実践報告に必要な足掛かりを掴めたことだ。今後は、今回使用した文献をもとにRQを立て、調査したいと思った。日本語教育全体として海外の中等教育現場からの研究は圧倒的に少なく、中高生ならではの成長や発達を捉えた実践を作り出すこと、どのような実践をなぜ作るのか教師が考えるための枠組みや理論が必要だと言われている。中等教育段階の日本語教育を盛り上げられるようになりたいと改めて思った。

会計報告

  • 活動資金 50,000円
  • 支出総額 75,002円
内 訳
項 目 備 考 小 計
交通費 自宅~成田空港 電車・バス代
自宅~異文化間教育学会@明治大学
自宅~ハワリンバヤル@光が丘公園
自宅~新モンゴル学園学園長講演会
@JICA地球ひろば
自宅~2019年度日本語教育学会春季大会
参加費@つくば国際会議場
一部定期券利用 7,818円
会合費 2019年度日本語教育学会春季大会参加費
@つくば国際会議場(入会金含む)
第40回異文化間教育学会参加費
新モンゴル学園学園長講演会参加費
懇親会代は自己負担 21,504円
資料雑誌費 教材費 266,243tg(レート1円24.35tg) 24,782円
委託費 観光ビザ更新にかかわる手数料及び仲介料 460,200tg(レート1円24.35tg) 18,899円
備品費 PC用リモートコントローラー 1,999円
合 計 75,002円
その他活動資金以外にかかった経費【自己負担分】
項 目 備 考 小 計
交通費 成田空港~チンギス・ハーン空港航空券代 先方に活躍を認めていただき、報償となった 87,510円
備品費 現地用携帯電話購入代金、通話・通信料 415,000tg(レート1円24.35tg) 17,043円
旅費 寮代 250,000tg(レート1円24.35tg) 10,266円
備品費 ノートパソコン購入代金 130,554円
消耗品費 名刺代 3,000円
合 計 248,373円
  • 活動資金 50,000円
  • 支出総額 75,002円
内 訳
項 目 交通費: 自宅~成田空港 電車・バス代
自宅~異文化間教育学会@明治大学
自宅~ハワリンバヤル@光が丘公園
自宅~新モンゴル学園学園長講演会
@JICA地球ひろば
自宅~2019年度日本語教育学会春季大会
参加費@つくば国際会議場
備 考 一部定期券利用 小 計 7,818円
項 目 会合費: 2019年度日本語教育学会春季大会参加費
@つくば国際会議場(入会金含む)
第40回異文化間教育学会参加費
新モンゴル学園学園長講演会参加費
備 考 懇親会代は自己負担 小 計 21,504円
項 目 資料雑誌費: 教材費 備 考 266,243tg(レート1円24.35tg) 小 計 24,782円
項 目 委託費: 観光ビザ更新にかかわる手数料及び仲介料 備 考 460,200tg(レート1円24.35tg) 小 計 18,899円
項 目 備品費: PC用リモートコントローラー 小 計 1,999円
合 計 75,002円
その他活動資金以外にかかった経費
【自己負担分】
項 目 交通費: 成田空港~チンギス・ハーン空港航空券代 備 考 先方に活躍を認めていただき、報償となった 小 計 87,510円
項 目 備品費: 現地用携帯電話購入代金、通話・通信料 備 考 415,000tg(レート1円24.35tg) 小 計 17,043円
項 目 旅費: 寮代 備 考 250,000tg(レート1円24.35tg) 小 計 10,266円
項 目 備品費: ノートパソコン購入代金 備 考 130,554円
項 目 消耗品費: 名刺代 小 計 3,000円
合 計 248,373円

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